現代のビジネス環境において、サイバーセキュリティはもはやIT部門だけの課題ではありません。企業の存続そのものを揺るがしかねない経営上の最重要課題として認識されています。日々巧妙化し、多様化するサイバー攻撃の脅威は、大企業から中小企業まで、あらゆる組織にとって現実的なリスクとなっています。攻撃者は、生成AIのような最新技術を悪用し、従来の手法をはるかに超える洗練された手口で、企業の防御網を突破しようと試みています。
この記事では、2024年現在、特に警戒すべきサイバー攻撃の最新動向から、企業が知っておくべき代表的な攻撃の種類、そして今すぐ実践できる具体的なセキュリティ対策までを網羅的に解説します。技術的な防御策はもちろん、組織体制の構築、従業員の意識向上といった多角的なアプローチを紹介し、堅牢なセキュリティ体制を築くためのロードマップを提示します。
さらに、信頼性の高い最新のセキュリティ情報を効率的に収集する方法や、専門的な対策を講じる際に頼りになる外部サービスについても具体的に触れていきます。本記事を通じて、自社のセキュリティレベルを客観的に評価し、次なる一歩を踏み出すための知識とインサイトを得られるはずです。サイバー脅威という見えない敵から企業の大切な資産を守り、持続的な成長を遂げるための一助となれば幸いです。
目次
2024年に警戒すべきサイバー攻撃の動向
サイバー攻撃の世界は、技術の進歩とともに絶えず変化しています。2024年において、企業が特に警戒すべき脅威の動向は、より巧妙化、大規模化、そして組織化しているのが特徴です。ここでは、現在進行形で企業を脅かしている主要なトレンドを6つの視点から深く掘り下げて解説します。これらの動向を理解することは、効果的なセキュリティ戦略を立案する上での第一歩となります。
生成AIの悪用による攻撃の巧妙化
2023年から急速に普及した生成AI(ジェネレーティブAI)は、ビジネスに革新をもたらす一方で、サイバー攻撃者にとっても強力な武器となっています。生成AIの悪用は、従来の攻撃の質と量を劇的に向上させ、検知を一層困難にしています。
具体的な悪用手口としては、以下のようなものが挙げられます。
- フィッシングメールの高度化: これまでのフィッシングメールは、不自然な日本語や文法的な誤りが多く、注意深いユーザーであれば見抜けるものも少なくありませんでした。しかし、生成AIを使えば、ターゲットの業種や役職、過去のやり取りなどを踏まえた、極めて自然で説得力のある文章を自動で大量に生成できます。これにより、受信者が疑いを抱くことなく、悪意のあるリンクをクリックしたり、添付ファイルを開いたりする可能性が飛躍的に高まります。
- マルウェアコードの自動生成: プログラミングの知識が乏しい攻撃者でも、生成AIに指示を与えるだけで、特定の機能を持つマルウェアのコードを生成させることが可能です。さらに、既存のマルウェアをわずかに改変した「亜種」を短時間で大量に生み出すこともできます。これにより、従来のパターンマッチング型のアンチウイルスソフトでは検知できない、未知のマルウェアが次々と出現する事態となっています。
- ディープフェイク技術の活用: 生成AIは、音声や映像を合成するディープフェイク技術にも応用されています。例えば、経営幹部の声を模倣して経理担当者に電話をかけ、不正な送金を指示する「音声ディープフェイク」による詐欺が懸念されます。これにより、ビジネスメール詐欺(BEC)などがさらに巧妙化し、電話での本人確認すら信頼できなくなる可能性があります。
これらの攻撃に対抗するためには、従来の対策に加えて、AIを活用した防御システムの導入や、従業員への最新の脅威動向に関する継続的な教育が不可欠です。 「少しでも怪しいと感じたら立ち止まる」という基本的な心構えを、組織全体で徹底する必要があります。
サプライチェーンの脆弱性を狙った攻撃の拡大
自社のセキュリティ対策を完璧に固めていても、取引先や業務委託先といったサプライチェーン上の脆弱な一点を突かれ、侵入を許してしまうのが「サプライチェーン攻撃」です。近年、セキュリティ対策が強固な大企業を直接狙うのではなく、比較的対策が手薄な中小の関連企業を踏み台にする攻撃が急増しています。
IPA(情報処理推進機構)が発表した「情報セキュリティ10大脅威 2024」においても、「サプライチェーンの脆弱性を悪用した攻撃」は組織向けの脅威として第2位にランクインしており、その深刻さがうかがえます。(参照:情報処理推進機構)
サプライチェーン攻撃の主な手口は以下の通りです。
- ソフトウェアサプライチェーン攻撃: 企業が利用しているソフトウェアやツールの開発元、あるいはアップデート配信サーバーなどを攻撃し、正規のプログラムにマルウェアを混入させます。ユーザーは正規のアップデートと信じてインストールするため、気付かないうちにマル…ウェアに感染してしまいます。
- 委託先経由の攻撃: システム開発や運用、保守などを外部に委託している場合、その委託先企業のネットワークに侵入し、そこから自社のシステムへアクセスを試みます。委託先には機密情報へのアクセス権が付与されていることが多く、一度侵入を許すと甚大な被害につながります。
- 取引先へのなりすまし: 取引先のメールアカウントを乗っ取り、そこから請求書を装ったウイルス付きメールを送付するなど、取引関係を悪用して信頼させ、攻撃を仕掛けます。
この脅威への対策は、自社内だけで完結しません。取引先や委託先に対しても、契約時に一定のセキュリティレベルを求めたり、定期的なセキュリティ監査を実施したりするなど、サプライチェーン全体でのセキュリティレベルの向上が求められます。 自社だけでなく、ビジネスで繋がるすべての組織が一体となって防御壁を築くという視点が重要です。
ランサムウェア攻撃の継続と高度化
ランサムウェアは、企業のデータを暗号化し、その復号と引き換えに高額な身代金(ランサム)を要求する悪質なマルウェアです。この脅威は依然として猛威を振るっており、その手口は年々高度化・悪質化しています。
近年のランサムウェア攻撃のトレンドは「二重恐喝(ダブルエクストーション)」や「三重恐喝(トリプルエクストーション)」です。
- 二重恐喝: データを暗号化するだけでなく、事前に窃取した機密情報を「公開する」と脅し、身代金の支払いを強要します。 たとえバックアップからデータを復旧できたとしても、情報漏洩のリスクが残るため、企業は非常に困難な判断を迫られます。
- 三重恐喝/四重恐喝: 二重恐喝に加え、DDoS攻撃(後述)でサービスを停止させたり、被害企業の顧客や取引先に直接連絡してプレッシャーをかけたりするなど、複数の脅迫手口を組み合わせます。 これにより、被害企業の事業継続を徹底的に妨害し、心理的な圧力をかけて支払いに応じさせようとします。
また、攻撃者はRaaS(Ransomware as a Service)と呼ばれるビジネスモデルを確立しています。これは、ランサムウェアを開発するグループが、それを「サービス」として他の攻撃者に提供し、得られた身代金の一部を分け合うというものです。これにより、高度な技術を持たない攻撃者でも容易にランサムウェア攻撃を実行できるようになり、攻撃の裾野が広がっています。
ランサムウェア対策の基本は、身代金を支払わないことです。 支払ってもデータが復号される保証はなく、むしろ攻撃者の活動資金となり、さらなる被害を生む原因となります。重要なのは、データの定期的なバックアップ(特にオフラインでの保管)と、インシデント発生時の復旧手順を明確にした計画(インシデントレスポンスプラン)を事前に策定しておくことです。
クラウド環境を標的とした攻撃の増加
デジタルトランスフォーメーション(DX)の進展に伴い、多くの企業が業務システムやデータをクラウド環境へ移行しています。このクラウドシフトは利便性や効率性を高める一方で、新たな攻撃対象(アタックサーフェス)を生み出しています。
クラウド環境特有のセキュリティリスクには、以下のようなものがあります。
- 設定不備: クラウドサービスは非常に多機能であるため、利用者の設定ミスが起こりやすいという側面があります。例えば、Amazon S3などのストレージサービスの設定ミスにより、本来非公開であるべき機密情報がインターネット上で誰でも閲覧可能な状態になってしまうケースが後を絶ちません。
- 認証情報の窃取: クラウドサービスの管理コンソールにアクセスするためのIDやパスワード、APIキーといった認証情報が漏洩すると、攻撃者にシステムを乗っ取られ、データの窃取や破壊、不正なリソース利用(暗号資産のマイニングなど)といった被害につながります。
- 共有責任モデルの誤解: クラウドサービスのセキュリティは、クラウド事業者と利用者の双方で責任を分担する「共有責任モデル」に基づいています。例えば、IaaS(Infrastructure as a Service)の場合、インフラ自体のセキュリティは事業者が責任を持ちますが、その上で稼働させるOSやアプリケーション、データのセキュリティは利用者が責任を負います。「クラウドだから安全」と安易に考え、利用者側の責任範囲の対策を怠ることが、重大なセキュリティインシデントを引き起こす原因となります。
クラウド環境のセキュリティを確保するためには、CASB(Cloud Access Security Broker)やCSPM(Cloud Security Posture Management)といったクラウドに特化したセキュリティソリューションの導入が有効です。 また、クラウドの設定を定期的に監査し、最小権限の原則を徹底してアクセス管理を行うことが極めて重要です。
標的型攻撃や内部不正のリスク
標的型攻撃は、不特定多数を狙うばらまき型の攻撃とは異なり、特定の企業や組織が持つ機密情報(知的財産、個人情報など)を狙って、長期間にわたり執拗に仕掛けられる攻撃です。攻撃者は、事前にターゲット組織を徹底的に調査し、従業員の役職や人間関係、業務内容などを把握した上で、巧妙な手口で侵入を試みます。
一方、内部不正は、従業員や元従業員、業務委託先の担当者など、正規のアクセス権を持つ人物によって引き起こされる情報漏洩やシステム破壊です。外部からの攻撃に対する防御壁がいくら強固でも、内部からの脅威には対応しきれない場合があります。
内部不正の動機は様々です。
- 金銭目的: 顧客情報や技術情報などを競合他社や名簿業者に売却する。
- 私的な恨み: 会社への不満や処遇への不満から、報復としてデータを破壊したり、情報を漏洩させたりする。
- 意図しないミス: 悪意はなくても、セキュリティ意識の欠如から、機密情報を誤って外部に送信してしまったり、私物のUSBメモリにデータをコピーして紛失したりするケース。
これらの脅威に対抗するためには、技術的な対策と人的な対策の両輪が必要です。不審な通信や挙動を検知・分析するEDR(Endpoint Detection and Response)やSIEM(Security Information and Event Management)の導入に加え、従業員に対する継続的なセキュリティ教育、アクセス権限の適切な管理、そして退職者のアカウントを速やかに削除するなどの運用ルールの徹底が求められます。特に、従業員の行動ログを監視・分析することは、内部不正の早期発見と抑止に繋がります。
IoT機器やモバイル端末への脅威
私たちの身の回りには、インターネットに接続された様々なIoT(Internet of Things)機器が溢れています。工場で稼働する産業用ロボットや監視カメラ、オフィスにあるネットワーク複合機やスマートスピーカーなどがその代表例です。これらのIoT機器は、しばしばセキュリティ対策が不十分なまま運用されており、攻撃者にとって格好の標的となっています。
IoT機器が抱える主な脆弱性は以下の通りです。
- 安易なパスワード: 出荷時のデフォルトパスワードがそのまま使われていたり、「admin」「12345」のような推測されやすいパスワードが設定されていたりするケースが非常に多いです。
- パッチの未適用: PCやサーバーと異なり、IoT機器はファームウェアのアップデートが頻繁に行われなかったり、そもそもアップデートの仕組みが提供されていなかったりすることがあります。これにより、既知の脆弱性が放置され、攻撃に悪用されます。
攻撃者は、これらの脆弱なIoT機器を乗っ取ってボットネットを形成し、DDoS攻撃の踏み台にしたり、企業ネットワークへの侵入口として利用したりします。
また、スマートフォンやタブレットといったモバイル端末も、業務で利用される機会が増えるにつれて、新たなリスクとなっています。公式ストア以外からインストールした不正なアプリによるマルウェア感染や、SMSを利用したフィッシング詐欺(スミッシング)など、モバイル特有の脅威が存在します。
これらの脅威に対しては、IoT機器導入時のセキュリティ要件の明確化、デフォルトパスワードの変更の徹底、そしてMDM(Mobile Device Management)によるモバイル端末の一元管理などが有効な対策となります。組織として管理されていない「シャドーIT」ならぬ「シャドーIoT」が存在しないか、定期的な棚卸しも重要です。
知っておくべきサイバー攻撃の主な種類15選
サイバー攻撃には多種多様な手口が存在します。ここでは、企業が最低限知っておくべき代表的なサイバー攻撃を15種類ピックアップし、その概要や手口、対策のポイントを解説します。自社がどのようなリスクに晒されているかを理解するために、ぜひ参考にしてください。
攻撃の種類 | 目的の例 | 主な標的 | 主な手口の例 |
---|---|---|---|
① 標的型攻撃 | 機密情報窃取、諜報活動 | 特定の組織・個人 | 巧妙な偽装メール、ゼロデイ脆弱性の悪用 |
② ランサムウェア | 金銭(身代金) | あらゆる組織・個人 | データの暗号化、情報公開の脅迫(二重恐喝) |
③ Emotet(エモテット) | 情報窃取、他のマルウェア感染 | あらゆる組織・個人 | 正規のメールへの返信を装う、不正マクロ付きファイル |
④ サプライチェーン攻撃 | 標的組織への侵入、広範囲へのマルウェア拡散 | 標的組織の取引先、ソフトウェア開発元 | 委託先への侵入、正規ソフトウェアへのマルウェア混入 |
⑤ ビジネスメール詐欺(BEC) | 金銭(不正送金) | 企業の経理・財務担当者 | 経営者や取引先へのなりすまし、請求書の偽装 |
⑥ ゼロデイ攻撃 | システム侵入、情報窃取 | 脆弱性を持つあらゆるシステム | 未知の脆弱性(修正パッチ未提供)を悪用 |
⑦ DoS/DDoS攻撃 | サービス妨害、業務妨害 | Webサイト、サーバー | 大量のアクセス・データを送りつけ、サーバーをダウンさせる |
⑧ SQLインジェクション | データベースの不正操作、情報窃取 | Webアプリケーション | 入力フォームに不正なSQL文を注入し、DBを操作 |
⑨ クロスサイトスクリプティング | 個人情報窃取(Cookieなど) | Webサイトの利用者 | 脆弱なサイトにスクリプトを埋め込み、訪問者のブラウザで実行 |
⑩ パスワードリスト攻撃 | 不正ログイン | 各種Webサービス | 他所で漏洩したID/パスワードのリストを使い、ログイン試行 |
⑪ 内部不正 | 情報漏洩、データ破壊、金銭 | 組織が保有する情報資産 | 正規の権限を持つ従業員などによる不正行為 |
⑫ フィッシング詐欺 | 個人情報・認証情報窃取 | 不特定多数の個人 | 実在の企業を騙る偽サイトへ誘導し、情報を入力させる |
⑬ 水飲み場攻撃 | マルウェア感染 | 特定の組織の従業員 | 標的がよく訪問するWebサイトを改ざんし、待ち伏せする |
⑭ IoT機器への攻撃 | ボットネット構築、ネットワーク侵入 | 脆弱なIoT機器 | デフォルトパスワードの悪用、脆弱性を突いた乗っ取り |
⑮ Webサイトの改ざん | 不正サイトへの誘導、マルウェア配布 | 一般公開されているWebサイト | 脆弱性を突き、サイトの表示内容を書き換え、不正コードを埋め込む |
① 標的型攻撃
特定の組織が持つ機密情報を狙い、周到な準備のもとで実行される攻撃です。攻撃者はSNSや公開情報からターゲット組織の従業員や業務内容を徹底的に調査し、業務に関係があるかのような巧妙な偽装メール(スピアフィッシングメール)を送付します。受信者が添付ファイルを開いたり、リンクをクリックしたりすることでマルウェアに感染させ、内部ネットワークへの侵入の足掛かりとします。一度侵入すると、長期間潜伏しながら権限を徐々に拡大し、最終目的である機密情報の窃取に至ります。 対策としては、不審なメールへの注意喚起といった人的対策に加え、侵入後の不審な活動を検知するEDRやNDR(Network Detection and Response)の導入が有効です。
② ランサムウェア
前述の通り、データを暗号化して身代金を要求する攻撃です。感染経路は、VPN機器の脆弱性を突いた侵入や、RDP(リモートデスクトッププロトコル)への総当たり攻撃、フィッシングメールなど多岐にわたります。近年では、データを暗号化するだけでなく、窃取したデータを公開すると脅す「二重恐喝」が主流です。対策の王道は、定期的なバックアップの取得と、そのバックアップデータがランサムウェアに感染しないようオフラインで保管(隔離)することです。 また、万が一感染した場合の復旧手順を定めたインシデントレスポンスプランの策定も不可欠です。
③ Emotet(エモテット)
Emotetは、主にメールを通じて感染を広げるマルウェアです。その最大の特徴は、感染したPCから窃取した過去のメールのやり取り(件名、本文、宛先など)を悪用し、正規のメールへの返信を装って不正なファイルを送付する点です。 知っている相手からの返信メールであるため、受信者は疑いを持つことなく添付ファイルを開いてしまいがちです。Emotet自体は、他のマルウェア(バンキング型トロイの木馬やランサムウェアなど)をダウンロードするための「ダウンローダー」として機能することが多く、感染するとさらなる被害に繋がります。対策としては、メールの添付ファイル、特にマクロ付きのOfficeファイルには細心の注意を払い、安易に「コンテンツの有効化」をクリックしないことが重要です。
④ サプライチェーン攻撃
自社ではなく、取引先や業務委託先、利用しているソフトウェアの開発元など、サプライチェーン(供給網)を構成する組織の脆弱性を突いて、最終的な標的である自社へ侵入する攻撃です。セキュリティ対策が手薄な中小企業が踏み台にされるケースが多発しています。自社のセキュリティを固めるだけでは防ぎきれないため、委託先の選定基準にセキュリティ要件を盛り込んだり、取引先と連携してセキュリティレベルの向上を図ったりするなど、サプライチェーン全体での対策が求められます。
⑤ ビジネスメール詐欺(BEC)
マルウェアを使わず、巧みな心理的トリック(ソーシャルエンジニアリング)によって企業の担当者を騙し、攻撃者の口座へ不正に送金させる詐欺です。経営幹部や取引先の担当者になりすまし、「至急の案件」「極秘の取引」などと称して、偽の請求書に基づいた送金を指示します。特に、経営者の名前で経理担当者に直接指示する手口は権威に逆らいにくく、被害に遭いやすい傾向があります。 対策としては、送金や支払いプロセスのルールを厳格化し、メールの指示だけで送金せず、必ず電話など別の手段で事実確認を行う「ダブルチェック」を徹底することが極めて重要です。
⑥ ゼロデイ攻撃
ソフトウェアの脆弱性が発見されてから、開発者による修正プログラム(パッチ)が提供されるまでの間(Day 0)に、その脆弱性を悪用して行われる攻撃です。修正パッチが存在しないため、パターンマッチング型のアンチウイルスソフトなど、既知の脅威を検出する仕組みでは防ぐことが困難です。対策としては、脆弱性の影響を緩和するIPS/IDS(不正侵入検知・防御システム)やWAF(Webアプリケーションファイアウォール)の導入、そして未知の脅威の挙動を検知するサンドボックスやEDRの活用が挙げられます。
⑦ DoS/DDoS攻撃
DoS(Denial of Service)攻撃は、特定のWebサイトやサーバーに対して、意図的に大量のアクセスやデータを送りつけ、リソースを枯渇させることでサービスを提供不能な状態に陥れる攻撃です。DDoS(Distributed Denial of Service)攻撃は、この攻撃を多数のPC(ボットネット)から分散して行うもので、より大規模で防御が困難です。目的は、単なる嫌がらせや業務妨害から、ランサムウェア攻撃と組み合わせた恐喝まで様々です。 対策としては、DDoS攻撃対策専用のサービスや、CDN(コンテンツデリバリネットワーク)が提供する緩和機能の利用が一般的です。
⑧ SQLインジェクション
Webアプリケーションの脆弱性を利用する代表的な攻撃の一つです。データベースと連携するWebサイトの入力フォームなどに、データベースへの命令文である「SQL文」の断片を不正に注入(インジェクション)することで、データベースを不正に操作します。これにより、データベース内の個人情報やクレジットカード情報が窃取されたり、データが改ざん・削除されたりする被害が発生します。 対策としては、Webアプリケーション開発時に、入力値を無害化する「エスケープ処理」や、安全なSQL文を組み立てる「プレースホルダ」を適切に実装することが基本となります。
⑨ クロスサイトスクリプティング
SQLインジェクションと並び、Webアプリケーションの代表的な脆弱性攻撃です。攻撃者は、脆弱性のあるWebサイトの掲示板などに、悪意のあるスクリプトを埋め込みます。他のユーザーがそのページを閲覧すると、埋め込まれたスクリプトがブラウザ上で実行され、偽の入力フォームを表示して個人情報をだまし取ったり、セッション管理に使われるCookie情報を窃取してなりすましを行ったりします。 対策としては、開発時に出力するデータに対して適切なエスケープ処理を施すことが重要です。
⑩ パスワードリスト攻撃
他のサービスから漏洩したIDとパスワードの組み合わせのリストを入手し、そのリストを使って別のサービスへのログインを機械的に試行する攻撃です。多くのユーザーが複数のサービスで同じパスワードを使い回しているという習慣を悪用します。単純な総当たり攻撃(ブルートフォース攻撃)よりも効率が良く、成功率が高いのが特徴です。 ユーザー側の対策としては、パスワードの使い回しを避け、サービスごとに異なる複雑なパスワードを設定することが基本です。サービス提供者側の対策としては、多要素認証(MFA)の導入が最も効果的です。
⑪ 内部不正
従業員や元従業員、委託先の担当者など、正規の権限を持つ人物が、その権限を悪用して情報を持ち出したり、システムを破壊したりする行為です。動機は金銭目的や私怨など様々で、悪意のない操作ミスによる情報漏洩も含まれます。外部からの攻撃と異なり、ファイアウォールなどでは防げないため、対策が難しい脅威の一つです。 対策としては、「最小権限の原則」に基づき、従業員には業務に必要な最低限のアクセス権限のみを付与すること、そして重要なデータへのアクセスログを監視し、不審な操作を検知する仕組みを導入することが重要です。
⑫ フィッシング詐欺
金融機関や大手ECサイト、公的機関などを装った偽のメールやSMSを送りつけ、本物そっくりの偽サイト(フィッシングサイト)へ誘導し、ID、パスワード、クレジットカード情報などを入力させて窃取する詐欺です。近年では、前述の生成AIの悪用により、メールの文面が非常に巧妙化しています。対策の基本は、メールやSMS内のリンクを安易にクリックせず、ブックマークや公式アプリからサービスにアクセスする習慣をつけることです。 また、多要素認証を設定しておくことで、万が一IDとパスワードが漏洩しても不正ログインを防げる可能性が高まります。
⑬ 水飲み場攻撃
ライオンが水飲み場で獲物を待ち伏せするように、攻撃者が標的組織の従業員が頻繁に訪れるWebサイト(業界ニュースサイト、業務で利用するWebサービスなど)を事前に調査し、そのサイトを改ざんしてマルウェアを仕掛けておく攻撃手法です。標的がそのサイトを訪れるだけでマルウェアに感染するため、標的型攻撃の一種でありながら、警戒心を抱かせにくい巧妙な手口です。 対策としては、OSやブラウザ、プラグインなどを常に最新の状態に保ち、脆弱性をなくすことが基本です。また、不審な挙動を検知するEDRなども有効です。
⑭ IoT機器への攻撃
インターネットに接続された監視カメラ、ルーター、ネットワーク複合機などのIoT機器の脆弱性を狙う攻撃です。出荷時のままの安易なパスワードが設定されている、ファームウェアがアップデートされず脆弱性が放置されているといった管理の不備を突いて機器を乗っ取ります。 乗っ取られたIoT機器は、DDoS攻撃の踏み台となるボットネットに組み込まれたり、社内ネットワークへの侵入の足掛かりとして悪用されたりします。対策としては、IoT機器のパスワードを複雑なものに変更し、定期的にファームウェアをアップデートすることが不可欠です。
⑮ Webサイトの改ざん
Webアプリケーションやサーバーの脆弱性を悪用して、Webサイトのコンテンツを不正に書き換える攻撃です。見た目を書き換えて政治的な主張を行ったり、サイト訪問者をマルウェア配布サイトやフィッシングサイトへ自動的に転送(リダイレクト)させたりする手口があります。自社のサイトが攻撃の加害者となり、企業の信用を著しく損なう結果につながります。 対策としては、WAFを導入して不正な通信を防ぐとともに、サーバーやCMS(コンテンツ管理システム)の脆弱性対策を徹底し、定期的にファイルの改ざんがないかチェックする仕組みを導入することが重要です。
企業が今すぐ始めるべきセキュリティ対策
進化し続けるサイバー攻撃に対し、企業は多層的かつ継続的な対策を講じる必要があります。効果的なセキュリティ体制は、「技術的対策(システムによる防御)」「体制的対策(ルールと仕組みによる備え)」「人的対策(人の意識とスキル向上)」という3つの柱で構成されます。ここでは、それぞれの柱に基づいた具体的な対策を、今日からでも始められるレベルで解説します。
技術的対策:システムで防御する
技術的対策は、サイバー攻撃を未然に防ぎ、万が一侵入された場合でも被害を最小限に食い止めるための基盤となります。最新のテクノロジーを活用し、システムの各レイヤーで防御壁を構築することが重要です。
セキュリティソフト(EDRなど)を導入する
多くの企業では、既知のマルウェアを検知・駆除するアンチウイルスソフト(パターンマッチング型)が導入されています。しかし、未知のマルウェアやゼロデイ攻撃、ファイルレス攻撃など、近年の巧妙な攻撃には対応しきれないケースが増えています。
そこで重要になるのがEDR(Endpoint Detection and Response)です。EDRは、PCやサーバーといったエンドポイントの操作や通信を常時監視し、マルウェアの感染が疑われる「不審な挙動」を検知して管理者に通知します。
対策 | 主な機能 | 特徴 |
---|---|---|
アンチウイルス(AV/EPP) | 既知のマルウェアの検知・駆除 | 侵入を防ぐ「入口対策」。パターンファイルに基づく。 |
EDR | 不審な挙動の検知、侵入後の調査・対応支援 | 侵入を前提とした「内部対策」。脅威の可視化と封じ込めが目的。 |
EDRを導入することで、万が一マルウェアの侵入を許してしまった場合でも、「いつ、どこから、どのように侵入し、どのような活動を行ったか」を迅速に把握し、被害の拡大防止や原因究明、復旧作業を効率的に進めることができます。 アンチウイルスとEDRを組み合わせることで、入口対策と内部対策の両面からエンドポイントのセキュリティを大幅に強化できます。
OSやソフトウェアを常に最新の状態に保つ
サイバー攻撃の多くは、OSやアプリケーション、ミドルウェアに存在する「脆弱性」を悪用します。ソフトウェア開発元は、脆弱性が発見されると、それを修正するためのプログラムである「セキュリティパッチ」を配布します。このパッチを速やかに適用し、システムを常に最新の状態に保つことは、セキュリティ対策の最も基本的かつ重要な要素です。
しかし、企業内には多数のPCやサーバーが存在し、手動でのパッチ適用は非常に手間がかかり、適用漏れが発生しやすくなります。そこで、パッチ管理ツールを導入し、パッチの適用状況を一元管理・自動化することが推奨されます。 これにより、管理者の負担を軽減しつつ、迅速かつ網羅的な脆弱性対策を実現できます。特に、前述のゼロデイ攻撃を除けば、多くの攻撃は既知の脆弱性を狙ってくるため、パッチ管理の徹底は極めて費用対効果の高い対策と言えます。
WAFやUTMでネットワークを保護する
ネットワークの境界で脅威を防ぐことも重要です。そのための代表的なソリューションが「WAF」と「UTM」です。
- WAF(Web Application Firewall): その名の通り、Webアプリケーションの保護に特化したファイアウォールです。SQLインジェクションやクロスサイトスクリプティングなど、従来のファイアウォールでは防げない、Webアプリケーション層への攻撃を検知・防御します。 公開Webサーバーを持つ企業にとっては必須の対策です。
- UTM(Unified Threat Management / 統合脅威管理): ファイアウォール、アンチウイルス、不正侵入防御(IPS)、VPN、Webフィルタリングなど、複数のセキュリティ機能を一台のアプライアンスに統合した製品です。 これ一台で多層的な防御を実現できるため、専任のセキュリティ担当者を置くことが難しい中小企業などで広く利用されています。
自社のネットワーク構成や公開しているサービスに応じて、これらのソリューションを適切に導入・組み合わせることで、外部からの不正なアクセスや攻撃を効果的にブロックできます。
ゼロトラストの考え方を導入する
従来のセキュリティモデルは、「社内ネットワークは安全、社外は危険」という境界型防御の考え方に基づいていました。しかし、クラウドサービスの利用拡大やリモートワークの普及により、社内と社外の境界は曖昧になっています。
そこで注目されているのが「ゼロトラスト」という考え方です。ゼロトラストは、「何も信頼しない(Trust Nothing, Verify Everything)」を原則とし、社内・社外を問わず、すべての通信やアクセスを検証・認証します。
ゼロトラストを実現するための具体的な要素としては、
- ID管理と強力な認証(多要素認証など)
- デバイスの健全性のチェック
- アクセス権限の最小化
- 通信の常時監視と分析
などがあります。ゼロトラストへの移行は一朝一夕にできるものではなく、段階的な導入が必要ですが、現代の働き方に即した、より堅牢で柔軟なセキュリティ体制を構築するための重要な指針となります。
体制的対策:ルールと仕組みで備える
優れた技術を導入しても、それを運用するためのルールや体制がなければ宝の持ち腐れです。セキュリティは、組織全体で取り組むべき活動であり、明確なルールとインシデント発生時に機能する仕組み作りが不可欠です。
多要素認証で不正ログインを防ぐ
パスワードリスト攻撃やフィッシング詐欺によって認証情報が漏洩するリスクは常に存在します。そこで極めて有効なのが多要素認証(MFA)の導入です。
多要素認証とは、ログイン時に2つ以上の異なる要素を組み合わせて本人確認を行う仕組みです。要素には以下の3種類があります。
- 知識情報: パスワード、PINコードなど(本人が知っていること)
- 所持情報: スマートフォンの認証アプリ、SMS、物理的なセキュリティキーなど(本人が持っているもの)
- 生体情報: 指紋、顔、静脈など(本人自身の特性)
万が一パスワードが漏洩しても、攻撃者は2つ目の要素(例えば、本人のスマートフォン)を持っていないため、不正ログインを防ぐことができます。 特に、VPNやクラウドサービス、Microsoft 365やGoogle Workspaceといった重要なシステムへのログインには、MFAを必須とすることが強く推奨されます。
重要なデータは定期的にバックアップする
ランサムウェア攻撃やシステム障害、人為的ミスなど、データが失われるリスクは多岐にわたります。これらの事態に備え、重要なデータを定期的にバックアップすることは、事業継続の観点から極めて重要です。
効果的なバックアップ戦略として「3-2-1ルール」が知られています。
- 3つのコピーを作成する(原本+2つのバックアップ)
- 2種類の異なるメディアに保存する(例:内蔵HDDと外付けHDD)
- 1つはオフサイト(遠隔地)に保管する
特にランサムウェア対策としては、バックアップデータがネットワークから隔離された状態(オフラインまたはエアギャップ)で保管されていることが重要です。 これにより、たとえ社内システムが暗号化されても、クリーンなバックアップからデータを復旧させることが可能になります。
攻撃された時の対応計画を立てる(インシデントレスポンス)
どれだけ対策を講じても、サイバー攻撃を100%防ぐことは不可能です。「攻撃は必ず起きるもの」という前提に立ち、インシデントが発生した際に、誰が、何を、どのように対応するのかを定めた「インシデントレスポンスプラン」を事前に策定しておく必要があります。
この計画には、以下のような項目を盛り込みます。
- インシデント対応体制(CSIRTなど)の定義と連絡網
- インシデントの検知とトリアージ(優先順位付け)の手順
- 被害拡大を防ぐための封じ込め手順(ネットワークからの隔離など)
- 原因究明と脅威の根絶、システムの復旧手順
- 経営層や関係各所(監督官庁、顧客、取引先)への報告手順
- 事後の振り返りと再発防止策の検討
この計画を文書化し、定期的に訓練(机上訓練や実地訓練)を行うことで、有事の際に慌てず、迅速かつ的確な対応が可能になります。
人的対策:人の意識とスキルを高める
セキュリティの最も弱い環(リンク)は「人」であるとよく言われます。従業員一人ひとりのセキュリティ意識と知識が、組織全体の防御力を大きく左右します。
全従業員にセキュリティ教育を実施する
すべての従業員を対象とした、継続的なセキュリティ教育は不可欠です。教育の内容としては、以下のようなものが考えられます。
- 標的型攻撃メール訓練: 偽の攻撃メールを従業員に送信し、開封率やURLクリック率を測定します。訓練結果をフィードバックすることで、従業員はどのようなメールが危険かを実践的に学び、警戒心を高めることができます。
- 情報セキュリティ研修: 最新のサイバー攻撃の動向、パスワード管理の重要性、不審なメールの見分け方、社内ルールの遵守など、情報セキュリティに関する基本的な知識を学ぶ研修を定期的に実施します。
- インシデント発生時の報告ルール周知: 不審なメールやPCの異常に気付いた際に、「自分で判断せず、すぐに情報システム部門に報告する」というルールを徹底させることが、被害の早期発見に繋がります。
セキュリティは「自分ごと」であるという意識を醸成することが、人的対策のゴールです。
専門知識を持つ人材を育成・確保する
巧妙化するサイバー攻撃に対抗するには、高度な専門知識を持つ人材が必要です。しかし、セキュリティ人材は社会全体で不足しており、確保は容易ではありません。
企業が取りうる選択肢は、社内での育成と外部専門家の活用の両輪です。
- 社内育成: 情報システム部門の担当者などに、外部の研修や資格取得を奨励し、専門スキルを身につけさせる。
- 外部専門家の活用: 自社ですべてを賄うのではなく、SOC(Security Operation Center)サービスやMDR(Managed Detection and Response)サービスを利用し、24時間365日の監視やインシデント対応を専門家にアウトソースすることも有効な手段です。
外部サービスの活用
自社のリソースだけでは限界がある場合、外部の専門的なサービスを活用することで、セキュリティレベルを効率的に高めることができます。
定期的に脆弱性診断を受ける
自社のシステム(サーバー、ネットワーク機器、Webアプリケーションなど)に潜む脆弱性を、専門家の視点から網羅的に洗い出すのが「脆弱性診断」です。攻撃者の視点で擬似的な攻撃を行い、セキュリティ上の問題点を発見・評価します。
脆弱性診断を定期的に(例えば、年に1回やシステムの大きな変更時など)受けることで、自社では気付けなかったリスクを客観的に把握し、優先順位をつけて対策を講じることができます。 診断結果は、セキュリティ投資の妥当性を経営層に説明する際の客観的な根拠としても活用できます。
ISMSなどのセキュリティ認証を取得する
ISMS(情報セキュリティマネジメントシステム)は、情報セキュリティに関する組織的な管理体制が適切に構築・運用されていることを第三者機関が認証する制度です(代表的な国際規格は「ISO/IEC 27001」)。
ISMS認証の取得プロセスを通じて、自社の情報資産を洗い出し、リスクを評価し、管理策を計画・実行するという一連のマネジメントサイクルを確立することができます。 認証を取得することは、対外的に自社のセキュリティレベルの高さを証明し、顧客や取引先からの信頼を獲得する上でも大きなメリットがあります。
最新のセキュリティニュースを収集する方法
サイバーセキュリティの世界では、新しい脅威や脆弱性が日々出現しています。自社の防御を最新の状態に保つためには、信頼できる情報源から継続的に情報を収集することが不可欠です。ここでは、情報収集に役立つ主要な情報源を「公的機関」「専門ニュースメディア」「セキュリティベンダー」の3つのカテゴリに分けて紹介します。
公的機関の情報を確認する
公的機関が発信する情報は、中立的かつ信頼性が非常に高いのが特徴です。特に、日本のサイバーセキュリティの中核を担う以下の2つの組織は必ずチェックしておくべきです。
IPA(情報処理推進機構)
IPAは、日本のIT国家戦略を技術面、人材面から支える独立行政法人です。セキュリティに関しても、多岐にわたる情報発信や注意喚起を行っています。
- 情報セキュリティ10大脅威: 毎年、前年に発生した社会的に影響が大きかったセキュリティ上の脅威を「個人」と「組織」の視点からランキング形式で発表しています。 最新の脅威トレンドを把握する上で最も重要な資料の一つです。(参照:情報処理推進機構)
- 重要なセキュリティ情報: 脆弱性に関する注意喚起や、大規模なサイバー攻撃が発生した際の緊急情報などを随時公開しています。特に自社で利用しているソフトウェアに関する情報が出ていないか、定期的に確認することが推奨されます。
- 各種ガイドライン: 中小企業向けの情報セキュリティ対策ガイドラインなど、実践的な手引きを数多く提供しており、対策の参考に非常に役立ちます。
JPCERT/CC
JPCERT/CC(JPCERT Coordination Center)は、日本国内のCSIRT(Computer Security Incident Response Team)の役割を担う一般社団法人です。主に、インシデントに関する報告の受付、対応の支援、発生状況の把握、手口の分析、再発防止策の検討と助言を行っています。
- 注意喚起(Alert): Emotetの感染再拡大など、特定の脅威に関する技術的な詳細や対策について、具体的な情報を提供しています。情報システム担当者にとっては必見の情報です。
- 脆弱性情報ハンドリング: 国内外で発見されたソフトウェアの脆弱性情報を収集・分析し、国内の製品開発者やWebサイト運営者へ対応を促す活動を行っています。
- Weekly Report: 一週間のインシデント報告状況や、注目すべきセキュリティ情報をまとめて発行しており、効率的な情報収集に役立ちます。
専門ニュースメディアを読む
セキュリティに特化したニュースメディアは、速報性や網羅性に優れています。日々の情報収集のルーティンに組み込むことをおすすめします。
Security NEXT
インシデントや脆弱性に関する速報性が非常に高いニュースサイトです。国内外で発生したセキュリティ関連の出来事をいち早くキャッチアップするのに適しています。平易な文章で書かれているため、専門家でなくても理解しやすいのが特徴です。(参照:Security NEXT)
ScanNetSecurity
セキュリティに関する幅広いトピックを網羅している老舗のニュースサイトです。国内外のニュース、脆弱性情報、新製品・サービス情報、イベントレポートなど、情報量が豊富です。業界の動向を俯瞰的に把握するのに役立ちます。(参照:株式会社イード)
ITmedia エンタープライズ セキュリティ
IT総合情報サイト「ITmedia」内のセキュリティ専門チャンネルです。特に企業の情報システム部門やセキュリティ担当者をターゲットとした、実践的で深い分析記事が多いのが特徴です。技術解説だけでなく、組織論や法制度に関する記事も充実しています。(参照:アイティメディア株式会社)
セキュリティベンダーのレポートを活用する
世界中でセキュリティ製品・サービスを提供しているベンダーは、自社のグローバルな観測網から得られる膨大なデータを基に、独自の脅威分析レポートを定期的に発行しています。これらのレポートは、最新の攻撃手口や将来の脅威予測など、非常に価値の高い情報を含んでいます。
トレンドマイクロ株式会社
世界有数の総合セキュリティ企業であり、グローバルな脅威インテリジェンスに強みを持っています。年次や半期ごとに発行されるサイバーセキュリティレポートは、脅威の統計データや詳細な分析が豊富で、マクロな視点から脅威動向を理解するのに最適です。また、公式ブログでも最新の脅威に関する解説記事を頻繁に公開しています。(参照:トレンドマイクロ株式会社)
ESET
特にマルウェア検出技術に定評のあるヨーロッパ発のセキュリティ企業です。公式ブログやレポートでは、特定のマルウェアファミリーに関する詳細な技術的解析(リバースエンジニアリングなど)や、サイバー犯罪グループの活動に関する深い洞察が提供されています。技術的な詳細を深く知りたい場合に非常に参考になります。(参照:ESET)
日本プルーフポイント株式会社
メールセキュリティや人的要因にフォーカスしたセキュリティソリューションを提供する企業です。ビジネスメール詐欺(BEC)やフィッシング、内部脅威といった「人」を標的とする攻撃に関する年次レポートは、他のベンダーとは異なるユニークな視点を提供しており、人的対策を考える上で非常に有益です。最新のソーシャルエンジニアリングの手口などを知ることができます。(参照:日本プルーフポイント株式会社)
これらの情報源を組み合わせて活用することで、多角的かつ網羅的に最新のセキュリティ情報を収集し、自社の対策に活かすことが可能になります。
セキュリティ対策におすすめのサービス・企業
自社だけで高度なセキュリティ対策を講じるのが難しい場合、専門のサービスや企業の力を借りるのが有効な選択肢となります。ここでは、特に需要の高い「脆弱性診断・コンサルティング」の分野で、実績のある企業をいくつか紹介します。企業選定の際は、各社の強みや特徴を理解し、自社の課題や目的に合ったパートナーを選ぶことが重要です。
脆弱性診断・コンサルティング会社
脆弱性診断は、自社のシステムに潜むセキュリティ上の弱点を専門家が客観的に評価してくれるサービスです。定期的な診断は、セキュリティレベルの維持・向上に不可欠です。
GMOサイバーセキュリティ byイエラエ
世界トップクラスのホワイトハッカーが在籍する、高度な技術力が強みの企業です。 Webアプリケーションやスマホアプリの診断はもちろん、自動車(コネクテッドカー)やIoT機器、ブロックチェーンといった最先端の領域まで、幅広い対象の診断に対応しています。高難易度の診断や、より実践的な侵入テスト(ペネトレーションテスト)を求める場合に特に強みを発揮します。(参照:GMOサイバーセキュリティ byイエラエ株式会社)
株式会社サイバーセキュリティクラウド
AI技術を活用したクラウド型WAF「攻撃遮断くん」で知られる企業です。WAFの提供で培ったWebセキュリティの知見を活かした脆弱性診断サービスを提供しています。ツール診断と専門家による手動診断を組み合わせたハイブリッドな診断が特徴で、コストを抑えつつも精度の高い診断を求める企業に適しています。WAFと脆弱性診断をセットで検討できるのもメリットです。(参照:株式会社サイバーセキュリティクラウド)
株式会社SHIFT
ソフトウェアの品質保証・テスト事業を主力とする企業です。そのテストノウハウを活かし、セキュリティの観点からソフトウェアの脆弱性を検出するサービスを提供しています。開発の上流工程からセキュリティを組み込む「シフトレフト」の考え方に基づいたコンサルティングや、開発者向けのセキュアコーディング教育なども手掛けており、製品やサービスの品質とセキュリティを両立させたい開発組織にとって心強いパートナーとなります。(参照:株式会社SHIFT)
株式会社LRM
ISMS(ISO27001)やPマークの認証取得支援コンサルティングで豊富な実績を持つ企業です。その強みを活かし、情報セキュリティマネジメントの観点から、規程類の整備と技術的な脆弱性対策(脆弱性診断)をワンストップで提供できるのが特徴です。 認証取得を目指す中で、技術的な弱点を補強したい企業や、ルールとシステムの両面からバランスの取れた対策を進めたい企業に適しています。(参照:株式会社LRM)
まとめ
本記事では、2024年におけるサイバー攻撃の最新動向から、企業が知っておくべき攻撃の種類、そして実践的なセキュリティ対策までを包括的に解説しました。
2024年に特に警戒すべきは、生成AIの悪用、サプライチェーン攻撃の拡大、ランサムウェアの高度化、クラウド環境への脅威、そして巧妙化する標的型攻撃や内部不正です。 これらの脅威は、もはや他人事ではなく、すべての企業が直面する現実的なリスクとなっています。
これらの脅威に対抗するためには、「技術」「体制」「人」という3つの側面から、多層的かつ継続的な対策を講じることが不可欠です。 EDRやWAFといった最新の技術を導入する「技術的対策」、多要素認証の導入やインシデントレスポンス計画の策定といった「体制的対策」、そして全従業員へのセキュリティ教育といった「人的対策」。この3つの歯車が噛み合って初めて、組織のセキュリティは強固なものとなります。
また、攻撃者の手口は常に進化し続けるため、IPAやJPCERT/CC、専門メディア、ベンダーレポートなどを活用し、最新の脅威情報を常に収集し続ける姿勢が重要です。 自社のリソースだけでは対応が難しい場合は、脆弱性診断サービスなどの外部専門家を積極的に活用することも賢明な判断と言えるでしょう。
サイバーセキュリティ対策に「終わり」はありません。それは、事業を継続し、顧客や社会からの信頼を守り続けるための、終わりのない旅路です。本記事が、その旅路における確かな一歩を踏み出すための道標となれば幸いです。