内定を獲得したものの、熟考の末に辞退を決意することは、就職活動や転職活動において誰にでも起こりうることです。しかし、いざ辞退するとなると「どう伝えればいいのか」「失礼にならないか」「怒られたらどうしよう」といった不安を感じる方も多いでしょう。
内定辞退は、企業に少なからず迷惑をかけてしまう行為です。だからこそ、社会人としての一歩を踏み出す者として、誠意ある対応を心がけることが極めて重要です。適切なマナーを守って連絡することで、企業との関係を良好に保ち、円満に辞退することが可能になります。
この記事では、内定辞退を決めた方が、自信を持って、かつ丁寧にその意思を伝えられるように、基本的なマナーから電話・メール別の具体的な伝え方、状況に応じた例文までを網羅的に解説します。内定辞退に関するあらゆる疑問や不安を解消し、円満な解決への一助となることを目指します。
目次
内定辞退を伝える前に押さえるべき基本マナー
内定辞退の連絡は、単に断りの連絡を入れればよいというものではありません。そこには、相手企業への配慮と、これまで選考に時間を割いてくれたことへの感謝を示す、社会人としての基本的なマナーが求められます。この章では、辞退の意思を伝える前に必ず押さえておくべき4つの基本マナーについて、その理由とともに詳しく解説します。
内定辞退の意思が固まったらすぐに連絡する
内定辞退を決意したら、可能な限り速やかに、具体的には意思決定から1〜2日以内に連絡するのが鉄則です。先延ばしにすればするほど、企業側にかかる迷惑は大きくなります。
なぜ迅速な連絡が重要なのでしょうか。その理由は、企業の採用活動の裏側を想像すると理解できます。企業は、内定を出した学生が入社してくれることを前提に、年間の採用計画や人員配置、研修の準備などを進めています。一人の内定辞退者が出ると、企業は以下のような対応に迫られます。
- 代替候補者への連絡:企業は、補欠として他の優秀な候補者をリストアップしている場合があります。しかし、連絡が遅れると、その候補者もすでに他社への入社を決めてしまっている可能性が高まります。迅速な連絡は、企業が次のアクションを起こすための貴重な時間を与えることにつながります。
- 採用活動の再開:代替候補者がいない場合、企業は追加の採用活動を行わなければならないかもしれません。これには、求人広告の出稿、説明会の開催、面接のセッティングなど、多大な時間とコストがかかります。
- 配属計画の見直し:どの部署に何人配属するかという計画も、一人の辞退者によって見直しが必要になる場合があります。特に専門職や少数精鋭の採用枠だった場合、その影響は甚大です。
連絡をためらう気持ちはよく分かります。気まずさや申し訳なさから、つい後回しにしてしまいたくなるかもしれません。しかし、連絡が遅れれば遅れるほど、企業側の損失が拡大し、結果としてあなた自身の心証を著しく損なうことになります。
逆に、迅速に連絡をすれば、「自社のこと(採用計画)を考えて早めに連絡してくれたんだな」と、誠実な印象を与えることさえ可能です。内定辞退は権利ですが、その権利を行使する際には、相手への影響を最小限に抑える配慮が不可欠です。意思が固まったら、勇気を出してすぐに連絡を取りましょう。
企業の営業時間内に連絡する
内定辞退の連絡は、原則として企業の営業時間内に行うのが社会人としての常識です。一般的に、平日の午前9時から午後5時(または6時)がコアな営業時間とされています。
特に避けるべきなのは、以下の時間帯です。
- 始業直後(例:9時〜10時頃):朝礼やメールチェック、一日の業務の段取りなどで、担当者が最も慌ただしい時間帯です。落ち着いて話を聞いてもらえない可能性があります。
- 昼休み(例:12時〜13時頃):担当者が休憩している時間帯に電話をかけるのは、非常識と受け取られかねません。必ず避けましょう。
- 終業間際(例:17時以降):一日の業務のまとめや残務処理、退勤準備などで忙しくしている時間帯です。長話になると相手に負担をかけてしまいます。
- 休日や祝日、深夜:言うまでもありませんが、業務時間外の連絡はマナー違反です。メールの場合でも、送信は営業時間内に行うのが望ましいでしょう。
では、どの時間帯が最も適しているのでしょうか。一般的には、相手が比較的落ち着いている可能性が高い「午前10時〜12時」や「午後2時〜4時」あたりが狙い目です。ただし、これはあくまで一般的な目安です。業界や企業文化によっては、特定の時間帯に会議が集中していることもあります。もし担当者のスケジュールが少しでも分かるようなら、それを考慮するとなお良いでしょう。
営業時間内に連絡することは、単に「迷惑をかけない」というだけでなく、「重要な要件である」という意思表示でもあります。業務時間外の連絡は、どこか軽い印象や、相手の都合を考えていないという印象を与えかねません。内定辞退という重要な話を切り出すのですから、相手が業務として真摯に対応できる時間帯を選ぶのが礼儀です。
連絡方法は電話が基本
内定辞退の連絡方法には電話とメールがありますが、最も丁寧で誠意が伝わる方法は「電話」です。メールは手軽で記録にも残りますが、一方的な印象を与えやすく、文字だけでは謝罪の気持ちが十分に伝わりにくい側面があります。
なぜ電話が基本なのでしょうか。
- 誠意が直接伝わる:声のトーンや話し方を通じて、お詫びの気持ちや真摯な態度を直接伝えることができます。「申し訳ない」という気持ちは、文章よりも肉声の方が格段に伝わります。
- 確実かつ迅速に伝達できる:メールの場合、担当者がいつ読むか分からず、見落とされるリスクもゼロではありません。電話であれば、担当者に直接、確実に辞退の意思を伝えることができます。
- 双方向のコミュニケーションが可能:企業側から質問があった場合にも、その場で回答できます。これにより、誤解やすれ違いを防ぎ、スムーズに話を終えることができます。
もちろん、電話をかけることに緊張や恐怖を感じる人もいるでしょう。しかし、採用担当者は内定辞退の連絡を受け慣れています。感情的に怒鳴ったり、責め立てたりするようなことは、まともな企業であればまずありません。むしろ、メール一本で済ませようとする姿勢の方が、「礼儀知らず」「不誠実」というネガティブな印象を与えかねません。
社会人としての第一歩は、気まずいことから逃げず、真摯に向き合う姿勢を示すことから始まります。 電話での連絡は、その誠意を示すための最も効果的な手段なのです。ただし、後述するように、電話がつながらない場合や企業から指示があった場合はメールでの連絡も許容されます。その場合でも、「まずは電話を試みた」というプロセスが重要になります。
誠意ある態度で感謝と謝罪を伝える
内定辞退の連絡において、最も重要な心構えが「感謝」と「謝罪」の気持ちを誠意ある態度で伝えることです。内定を辞退するのはあなたの権利ですが、企業があなたのために多くの時間、労力、コストを費やしてくれたことは紛れもない事実です。
書類選考から複数回の面接、内定通知に至るまで、多くの社員が関わり、あなたの可能性を評価してくれました。その期待に応えられなかったことに対するお詫びと、自分自身を評価してくれたことへの感謝の気持ちを忘れてはなりません。
具体的には、以下のような言葉遣いを心がけましょう。
- クッション言葉を使う:「大変申し上げにくいのですが」「誠に恐縮ですが」といったクッション言葉を添えることで、本題を切り出す際の唐突さを和らげ、相手への配慮を示すことができます。
- 感謝を具体的に伝える:「この度は内定のご連絡をいただき、誠にありがとうございました」「〇〇様には、面接で貴重なお時間をいただいたこと、心より感謝申し上げます」など、何に対する感謝なのかを明確にすると、より気持ちが伝わります。
- 謝罪の気持ちを明確に述べる:「ご期待に沿えず、誠に申し訳ございません」「貴重なお時間をいただいたにもかかわらず、このような結果となり、大変申し訳ございません」と、ストレートにお詫びの言葉を述べましょう。
態度は言葉以上に雄弁です。電話であれば、落ち着いた丁寧な口調で。メールであれば、誤字脱字のない、丁寧な言葉遣いで。その一つひとつの振る舞いが、あなたの誠意を形作ります。
たとえ今回ご縁がなかったとしても、将来的にその企業と取引先として関わったり、転職先として再会したりする可能性はゼロではありません。誠意ある対応で円満に辞退することは、未来の自分のためでもあるのです。
内定辞退の連絡は電話とメールどちらが適切?
内定辞退の連絡手段として、電話とメールのどちらを選ぶべきか、多くの人が悩むポイントです。前章で「電話が基本」と述べましたが、状況によってはメールが適切な場合もあります。この章では、電話とメールそれぞれの役割と、両者を組み合わせた最も理想的な方法について、さらに詳しく掘り下げていきます。
原則は電話での連絡が最も丁寧
改めて強調しますが、内定辞退の第一報は電話で行うのが最も丁寧で、社会的なコンセンサスとなっています。その理由は、直接対話することでしか伝えられないニュアンスがあるからです。
考えてみてください。企業はあなたを一人の人間として評価し、仲間として迎え入れようと内定を出しました。その関係性の終わりを告げるのに、テキストメッセージだけで済ませるのは、相手への敬意が欠けていると受け取られても仕方ありません。
電話のメリットは以下の通りです。
- 声による感情表現:お詫びの気持ちは、声のトーンや抑揚、話す速さなど、非言語的な要素によって大きく伝わり方が変わります。真摯な声で「申し訳ございません」と伝えることは、メールで同じ言葉を10回書くよりも相手の心に響く場合があります。
- 誤解の即時解消:もし企業側が辞退理由について何か尋ねたいことがあった場合、電話ならその場で質疑応答が可能です。これにより、誤解や憶測が生じるのを防ぎ、クリアなコミュニケーションで締めくくることができます。
- 誠実な姿勢のアピール:気まずい要件であるにもかかわらず、勇気を出して直接電話をしてきたという事実そのものが、あなたの誠実さの証明となります。多くの採用担当者は、この「逃げない姿勢」を評価します。
もちろん、電話が苦手な人にとって、これは高いハードルに感じるかもしれません。「何を話せばいいか分からなくなる」「緊張してうまく話せない」といった不安もあるでしょう。しかし、その不安を乗り越えるための準備(後述するメモの用意など)をしっかり行えば、誰でも誠実な対応は可能です。企業側も、完璧な口上を求めているわけではなく、一生懸命に伝えようとするその姿勢を見ています。
メールでの連絡が許容されるケース
原則が電話である一方、例外的にメールでの連絡が許容されたり、むしろ適切だったりするケースも存在します。感情的に「電話は嫌だ」と避けるのではなく、合理的な理由がある場合に限り、メールという選択肢を検討しましょう。
具体的には、以下のような状況が考えられます。
- 企業側からメールでの連絡を指示されている場合:採用プロセスにおいて「今後の連絡はすべてメールでお願いします」といった指示があったり、内定通知書に「ご辞退の場合はメールにてご連絡ください」といった記載があったりする場合は、その指示に従うのが最もスムーズです。
- 担当者と何度か試みても電話が繋がらない場合:営業時間内に複数回(例えば、日や時間を変えて3回程度)電話をかけても担当者が不在、または会議中で捕まらない場合、いつまでも連絡を遅らせるわけにはいきません。その際は、「何度かお電話いたしましたが、ご多忙のようでしたので、取り急ぎメールにて失礼いたします」という一文を添えてメールを送るのが適切です。
- 担当者の連絡先がメールアドレスしか分からない場合:そもそも電話番号が公開されておらず、連絡手段がメールしかない場合は、当然メールで連絡することになります。
- 外資系企業やITベンチャーなど、普段からメールやチャットでのコミュニケーションが主体の企業文化の場合:企業の文化によっては、電話よりもテキストコミュニケーションを好む場合があります。これまでのやり取りを振り返り、メールでの連絡が不自然でないと判断できる場合は、メールでの連絡も選択肢となり得ます。
- 営業時間外や休日に辞退の意思を固め、取り急ぎ一報を入れたい場合:例えば金曜日の夜に辞退を決意した場合、月曜日の朝まで連絡を待つよりも、まずメールで一報を入れておく、という考え方もあります。ただし、その場合でも、月曜日の営業時間内に改めて電話でお詫びするのがより丁寧な対応と言えるでしょう。
電話とメールを組み合わせるのが理想的
これまで電話とメールのそれぞれの役割を見てきましたが、最も丁寧で確実、そして円満な辞退を実現するための理想的な方法は、「電話での第一報」と「その後の確認とお詫びのメール」を組み合わせることです。
この方法は、電話の「誠意が伝わりやすい」というメリットと、メールの「記録として残り、正確な伝達ができる」というメリットの両方を享受できます。
具体的なフローは以下の通りです。
- 【STEP1】電話で内定辞退の意思を伝える:企業の営業時間内に担当者へ電話をかけ、直接、内定を辞退する旨とお詫びを伝えます。
- 【STEP2】電話後、速やかにメールを送る:電話を切った後、できるだけ時間を置かずに(できれば同日中に)改めてメールを送ります。メールには、先ほど電話で話した内容の確認として、再度、内定辞退の意思、お詫び、そして感謝の言葉を記述します。
この「電話+メール」の組み合わせがなぜ最強なのか、そのメリットを整理してみましょう。
連絡方法 | メリット | デメリット | こんな人におすすめ |
---|---|---|---|
電話のみ | ・誠意が直接伝わる ・リアルタイムで対話できる ・その場で完結する可能性が高い |
・緊張しやすい ・言った言わないのトラブルの可能性(稀) ・担当者が不在の場合、再度かける手間がある |
・とにかく早く、直接誠意を伝えたい人 ・話すことに抵抗がない人 |
メールのみ | ・記録として正確に残る ・自分のペースで文章を推敲できる ・時間に縛られず送信できる(ただしマナーは考慮) |
・誠意が伝わりにくい可能性がある ・一方的な印象を与えやすい ・読まれたかどうかの確認が遅れる場合がある |
・企業から指示された場合 ・何度かけても電話が繋がらない最終手段として |
電話+メール | ・電話で誠意を伝え、メールで確実性を担保できる ・最も丁寧で、非の打ち所がない ・記録にも残り、双方に誤解が生じない ・感謝とお詫びの気持ちを二重に伝えられる |
・手間と時間がかかる(が、その手間が誠意の証) | ・円満な内定辞退を望むすべての人 ・特に、お世話になった担当者に最大限の敬意を払いたい人 |
多少の手間はかかりますが、この丁寧な対応は、あなたの社会人としての評価を高めることにも繋がります。内定辞退というネガティブな連絡だからこそ、相手への配慮を最大限に示した行動をとることが、最終的にあなた自身を守り、円満な解決へと導く鍵となるのです。
【電話編】内定辞退の伝え方と会話の流れ
内定辞退の連絡で最も緊張するのが電話です。しかし、事前の準備と流れの理解があれば、誰でも落ち着いて対応できます。この章では、電話をかける前の準備から、具体的な会話のステップまでを詳しく解説します。
電話をかける前の準備
成功の鍵は準備にあります。ぶっつけ本番で電話をかけるのではなく、以下の3つの準備を必ず行いましょう。
静かな環境を確保する
これは基本的なマナーですが、非常に重要です。雑音の多い場所からの電話は、相手に不快感を与えるだけでなく、重要な聞き間違いの原因にもなります。
- 確保すべき場所:自宅の静かな部屋、大学のキャリアセンターの個室など、周囲の話し声や物音が入らない場所を選びましょう。
- 避けるべき場所:駅のホーム、往来の激しい路上、カフェ、家族がいるリビングなどは絶対に避けてください。電波が不安定な場所もNGです。
相手の声が聞き取りにくい、自分の声が届きにくいといった状況は、スムーズな会話を妨げ、焦りを生みます。相手に何度も聞き返させるようなことがないよう、クリアな音声で対話できる環境を整えることが、最初の配慮です。
伝える内容をまとめたメモを用意する
電話では、緊張で頭が真っ白になり、言いたいことを忘れてしまう可能性があります。それを防ぐために、話す内容の要点をまとめたメモを手元に用意しておくことを強く推奨します。
メモに記載すべき項目は以下の通りです。
- 企業の正式名称
- 担当者の部署名と氏名(漢字も確認)
- 自分の大学名、学部名、氏名
- 挨拶の言葉:「お世話になっております。〇〇大学の〇〇と申します。」
- 要件(内定辞退の意思):「先日は内定のご連絡、誠にありがとうございました。大変申し上げにくいのですが、今回は内定を辞退させていただきたく、ご連絡いたしました。」
- 辞退理由:基本は「一身上の都合により」でOK。もし理由を聞かれた場合に備え、「自身の適性を考えた結果」など、簡潔で当たり障りのない理由を準備しておくと安心です。
- 感謝と謝罪の言葉:「貴重なお時間をいただいたにもかかわらず、申し訳ございません。」「末筆ながら、貴社の益々のご発展をお祈り申し上げます。」
- 担当者不在時の対応:「〇〇様は何時頃お戻りになりますでしょうか。改めてお電話いたします。」
このメモがあるだけで、心理的なお守りになります。棒読みになるのは避けるべきですが、話の骨子を確認しながら、落ち着いて自分の言葉で伝える助けとなります。
企業の連絡先と担当者名を確認する
基本的なことですが、意外と見落としがちなのが、連絡先の再確認です。電話番号、担当者の部署名、氏名を、メールの署名や採用通知書などで正確に確認しておきましょう。特に、担当者の氏名の漢字を間違えるのは大変失礼にあたります。
また、会社の代表番号しか分からない場合は、電話口で採用担当の部署に繋いでもらう必要があります。その際、部署名と担当者名をスムーズに伝えられるように準備しておくことが重要です。
電話をかけるのに適した時間帯
前述の通り、電話をかける時間帯は相手への配慮を示す重要な要素です。改めて最適な時間帯を確認しましょう。
- ベストな時間帯:平日の午前10時~12時、または午後2時~4時。この時間帯は、始業直後のバタバタや昼休憩、終業間際の慌ただしさを避けられる可能性が高いです。
- 避けるべき時間帯:始業直後、昼休み、終業間際、そして月曜の午前中や金曜の午後も、週の始まりや終わりで多忙なことが多いため、可能であれば避けた方が無難です。
相手の都合を第一に考え、最も落ち着いて話を聞いてもらえそうな時間を選ぶことが、円滑なコミュニケーションの第一歩です。
電話での内定辞退の伝え方4ステップ
準備が整ったら、いよいよ電話をかけます。以下の4つのステップに沿って進めれば、スムーズに要件を伝えることができます。
① 挨拶と自己紹介
電話が繋がったら、まずはっきりと、落ち着いた声で挨拶と自己紹介をします。
あなた:「お忙しいところ恐れ入ります。私、〇〇大学〇〇学部の〇〇(フルネーム)と申します。先般、内定の通知をいただきました者です。」
大学名と氏名を名乗ることで、相手が誰からの電話かをすぐに認識できるようにします。
② 担当者へ取り次ぎを依頼する
次に、採用担当者を呼び出してもらいます。部署名と氏名を正確に伝えましょう。
あなた:「採用ご担当の〇〇部、〇〇様はいらっしゃいますでしょうか?」
もし担当者が不在の場合は、慌てずに戻り時間を確認し、自分からかけ直す旨を伝えます。
(担当者不在の場合)
受付の方:「申し訳ございません。あいにく〇〇は席を外しております。」
あなた:「さようでございますか。承知いたしました。何時頃お戻りになりますでしょうか?」
受付の方:「〇時頃に戻る予定です。」
あなた:「ありがとうございます。それでは、その頃に改めてお電話させていただきます。失礼いたします。」
伝言を頼むことも可能ですが、重要な要件であるため、できる限り自分からかけ直して直接話すのが望ましいです。
③ 内定辞退の意思と理由を伝える
担当者に電話が繋がったら、いよいよ本題です。まずは内定へのお礼を述べ、その後、クッション言葉を挟んで辞退の意思を明確に伝えます。
あなた:「お忙しいところ失礼いたします。〇〇大学の〇〇です。この度は、内定のご連絡をいただき、誠にありがとうございました。」
担当者:「ああ、〇〇さん。ご連絡ありがとうございます。」
あなた:「大変申し上げにくいのですが、誠に勝手ながら、検討させていただいた結果、今回は内定を辞退させていただきたく、ご連絡いたしました。」
ここで最も重要なのは、お詫びの気持ちを込めつつも、辞退の意思をはっきりと伝えることです。「辞退しようか迷っておりまして…」といった曖昧な言い方は、相手に引き止めの余地を与えてしまい、話をこじらせる原因になります。
辞退理由を聞かれた場合は、正直に、かつ簡潔に答えます。
担当者:「そうですか…。差し支えなければ、理由をお聞かせいただけますか?」
あなた(基本パターン):「はい。熟考を重ねた結果、自身の適性などを改めて考え、別の会社とのご縁を感じ、そちらに進むことを決断いたしました。ご期待に沿えず、大変申し訳ございません。」
あなた(シンプルパターン):「誠に申し訳ございませんが、一身上の都合により、辞退させていただきたく存じます。」
理由は「一身上の都合」でも問題ありません。もし具体的に話す場合は、他社や自社へのネガティブな発言は絶対に避け、「自分の適性」や「キャリアプラン」といったポジティブな視点から語るのがマナーです。
④ 感謝と謝罪を述べて電話を切る
辞退の意思を伝え、話がまとまったら、最後に改めて感謝と謝罪の言葉を述べて電話を終えます。
あなた:「〇〇様には、選考の段階から大変お世話になりましたこと、心より感謝申し上げます。貴重なお時間をいただいたにもかかわらず、このような形でのご連絡となり、誠に申し訳ございませんでした。」
「本来であれば直接お伺いしてお詫びすべきところ、お電話でのご連絡となりますことをご容赦ください。」
「末筆ながら、貴社の益々のご発展を心よりお祈り申し上げます。」担当者:「分かりました。〇〇さんのご活躍をお祈りしています。」
あなた:「ありがとうございます。それでは、失礼いたします。」
電話は、相手が切ったのを確認してから、静かに受話器を置く(または通話終了ボタンを押す)のがビジネスマナーです。最後まで丁寧な対応を心がけましょう。
【メール編】内定辞退メールの書き方とポイント
電話での連絡が基本ですが、企業からの指示があった場合や、電話がどうしても繋がらなかった場合など、メールで内定辞退を伝える場面もあります。メールは文章が形として残るため、言葉遣いや構成には細心の注意が必要です。この章では、失礼のない内定辞退メールを作成するためのポイントを解説します。
メールの件名は分かりやすく簡潔に
採用担当者は、日々大量のメールを受け取っています。そのため、件名を見ただけで「誰から」「何の要件か」が瞬時に分かるようにすることが非常に重要です。分かりにくい件名は、他のメールに埋もれて開封が遅れたり、最悪の場合見落とされたりするリスクがあります。
【良い件名の例】
【内定辞退のご連絡】〇〇大学 氏名
内定辞退のご連絡/氏名(〇〇大学)
〇月〇日付内定へのご回答(氏名)
これらの件名は、「内定辞退」という最も重要なキーワードと、送信者が誰であるかを示す「大学名」「氏名」が含まれているため、担当者がすぐに対応すべきメールだと認識できます。
【悪い件名の例】
お世話になっております
ご連絡
(件名なし)
このような抽象的な件名は、迷惑メールと間違われたり、後回しにされたりする可能性があります。必ず具体的で分かりやすい件名を設定しましょう。
本文に含めるべき構成要素
内定辞退メールは、ビジネスメールの基本構成に沿って、以下の要素を漏れなく含める必要があります。それぞれの要素について、書き方のポイントと例文を見ていきましょう。
宛名
メールの冒頭には、必ず宛名を記載します。宛名は、「会社名」「部署名」「役職名」「担当者氏名」の順で、正式名称を正確に書きます。株式会社を(株)と略したり、部署名や氏名を間違えたりするのは大変失礼にあたるため、送信前に必ず確認してください。
【例文】
株式会社〇〇
人事部 採用ご担当
〇〇 〇〇 様
担当者の名前が分からない場合は、「採用ご担当者様」と記載します。
挨拶と自己紹介
宛名の次に、挨拶と自己紹介を記述します。いつ、どのポジションで内定をもらった者なのかを明確に伝えましょう。
【例文】
お世話になっております。
〇月〇日に内定のご連絡をいただきました、〇〇大学〇〇学部の〇〇(フルネーム)です。
内定へのお礼
本題に入る前に、まずは内定をいただいたことへの感謝の気持ちを伝えます。この一文があるだけで、メール全体の印象が丁寧になります。
【例文】
この度は、内定のご連絡をいただき、誠にありがとうございました。
皆様には大変良くしていただき、心より感謝申し上げます。
内定辞退の意思表示
次に、この記事の核心である内定辞退の意思を伝えます。結論を先に、明確かつ簡潔に述べることが重要です。曖昧な表現は避け、「辞退させていただきます」とはっきりと書きましょう。
【例文】
このような素晴らしい機会をいただきながら大変恐縮なのですが、慎重に検討を重ねた結果、誠に勝手ながら、この度の内定を辞退させていただきたく存じます。
辞退理由(簡潔に)
電話の場合と同様、メールでも詳細な辞退理由を述べる義務はありません。「一身上の都合により」とするのが最も一般的で無難です。
【例文(基本)】
理由といたしましては、一身上の都合によるものです。何卒ご容赦ください。
もし、より丁寧に伝えたい場合は、他社への批判にならないよう配慮しつつ、ポジティブな表現で簡潔に述べます。
【例文(丁寧)】
自身の適性や将来のキャリアについて熟考を重ねた結果、別の企業とご縁を感じ、そちらの道に進む決断をいたしました。
結びの言葉(謝罪と感謝)
メールの締めくくりとして、改めて謝罪と感謝の言葉を述べます。期待を裏切る形になったことへのお詫びと、選考に時間を割いてもらったことへの感謝を丁寧に伝えましょう。最後に、企業の今後の発展を祈る一文を加えるのがビジネスマナーです。
【例文】
皆様には選考を通じて大変お世話になったにもかかわらず、このようなご連絡となりましたこと、心よりお詫び申し上げます。
本来であれば直接お伺いしお詫びすべきところ、メールでのご連絡となりましたことを何卒ご容赦いただきたくお願い申し上げます。末筆ながら、貴社の益々のご発展を心よりお祈り申し上げます。
署名
本文の最後には、必ず署名を入れます。「大学名・学部・学科」「氏名」「住所」「電話番号」「メールアドレス」を正確に記載してください。これは、誰からのメールであるかを明確にし、企業側があなたに連絡を取りたい場合に備えるための重要な情報です。
【例文】
〇〇大学 〇〇学部 〇〇学科
氏名 〇〇 〇〇郵便番号:〒XXX-XXXX
住所:東京都〇〇区〇〇1-2-3
電話番号:090-XXXX-XXXX
メールアドレス:〇〇@〇〇.ac.jp
メール送信前に確認すべきチェックリスト
メールは一度送信すると取り消せません。送信ボタンを押す前に、以下の項目を必ず最終確認しましょう。
- [ ] 宛名は正しいか?(会社名、部署名、担当者名に誤りはないか?)
- [ ] 件名は分かりやすいか?(「内定辞退」「氏名」が入っているか?)
- [ ] 誤字脱字はないか?(特に相手の会社名や氏名は要注意)
- [ ] 自分の名前や大学名は正しく記載されているか?
- [ ] 辞退の意思は明確に伝わる表現になっているか?
- [ ] 感謝と謝罪の言葉は含まれているか?
- [ ] 署名は正しく記載されているか?(連絡先に間違いはないか?)
- [ ] 送信先のアドレスは正しいか?(To、Cc、Bccを再確認)
これらのチェックを怠ると、せっかく丁寧に書いたメールも台無しになってしまいます。細心の注意を払って、完璧な状態で送信しましょう。
【例文7選】状況別に使える内定辞退の伝え方
内定辞退の伝え方は、状況によって最適な表現が異なります。ここでは、電話とメールそれぞれについて、具体的な状況を想定した7つの例文を紹介します。これらの例文を参考に、ご自身の状況に合わせて調整してください。
① 【電話】担当者に直接辞退を伝える場合の例文
最も基本的で理想的なケースです。落ち着いて、誠意を込めて話しましょう。
あなた:「お忙しいところ恐れ入ります。私、〇〇大学の〇〇と申します。先般、内定の通知をいただきました者です。採用ご担当の〇〇様はいらっしゃいますでしょうか?」
(担当者に代わる)
担当者:「お電話代わりました、〇〇です。」
あなた:「お世話になっております。〇〇大学の〇〇です。ただいま、お時間よろしいでしょうか?」
担当者:「はい、大丈夫ですよ。」
あなた:「先日は内定のご連絡をいただき、誠にありがとうございました。大変申し上げにくいのですが、慎重に検討を重ねた結果、誠に勝手ながら、今回は内定を辞退させていただきたく、お電話いたしました。」
担当者:「そうですか…残念です。差し支えなければ、理由をお伺いしてもよろしいですか?」
あなた:「はい。自身の適性や将来について考えた結果、別の会社とのご縁を大切にしたいと判断いたしました。御社には大変魅力を感じており、最後まで悩みましたが、このような決断となりました。ご期待に沿えず、誠に申し訳ございません。」
担当者:「分かりました。〇〇さんのご決断を尊重します。今後のご活躍をお祈りしています。」
あなた:「ありがとうございます。〇〇様には選考の段階から大変お世話になりました。本来であれば直接お伺いすべきところ、お電話でのご連絡となり大変申し訳ございません。それでは、失礼いたします。」
② 【電話】担当者不在で伝言を頼む場合の例文
担当者が不在でも、慌てる必要はありません。かけ直すのが基本ですが、どうしても繋がらない場合に伝言を頼む際の例文です。
あなた:「お忙しいところ恐れ入ります。〇〇大学の〇〇と申します。採用ご担当の〇〇様にお取次ぎいただけますでしょうか。」
受付:「申し訳ございません。あいにく〇〇は終日会議の予定でして…。」
あなた:「さようでございますか。承知いたしました。それでは、大変恐縮なのですが、伝言をお願いしてもよろしいでしょうか。」
受付:「はい、かしこまりました。」
あなた:「先日内定をいただきました〇〇大学の〇〇と申しますが、内定辞退のご連絡でお電話いたしました。後ほど改めてメールでもご連絡させていただきますので、その旨を〇〇様にお伝えいただけますでしょうか。」
受付:「承知いたしました。内定ご辞退の件で、〇〇大学の〇〇様からお電話があったこと、そして後ほどメールをくださるとお伝えします。」
あなた:「ありがとうございます。お手数をおかけしますが、よろしくお願いいたします。失礼いたします。」
③ 【メール】電話で辞退を伝えた後に送る場合の例文
電話で辞退を伝えた後、確認と改めてのお詫びのために送るメールです。最も丁寧な対応となります。
件名:【内定辞退のご連絡】〇〇大学 氏名
本文:
株式会社〇〇
人事部 〇〇様お世話になっております。
〇〇大学の〇〇です。先ほどお電話にて内定辞退の旨をお伝えいたしましたが、
改めてご連絡させていただきました。この度は内定のご連絡をいただき、誠にありがとうございました。
貴重な機会をいただきながら、誠に恐縮ではございますが、
今回の内定を辞退させていただきたく存じます。電話でもお伝えいたしましたが、自身の適性を慎重に検討した結果、
このような決断に至りました。皆様には大変親身にご対応いただいたにもかかわらず、
このような結果となりましたこと、心よりお詫び申し上げます。末筆ながら、貴社の益々のご発展を心よりお祈り申し上げます。
署名
④ 【メール】担当者不在で電話がつながらなかった場合の例文
何度か電話したものの、担当者と話せなかった場合に送るメールです。「電話をしたが繋がらなかった」という経緯を伝えることがポイントです。
件名:【内定辞退のご連絡】〇〇大学 氏名
本文:
株式会社〇〇
人事部 〇〇様お世話になっております。
〇月〇日に内定をいただきました、〇〇大学の〇〇です。本日、内定辞退のご連絡のため何度かお電話を差し上げたのですが、
ご多忙のようでしたので、メールにて失礼いたします。この度は内定のご連絡、誠にありがとうございました。
このような機会をいただきながら大変恐縮ですが、
検討の結果、誠に勝手ながら、内定を辞退させていただきたく存じます。本来であれば直接お電話で申し上げるべきところ、
メールでのご連絡となりましたこと、何卒ご容赦ください。末筆ながら、貴社の益々のご発展を心よりお祈り申し上げます。
署名
⑤ 【メール】メールでの連絡を指示された場合の例文
企業からメールでの連絡を指定されている場合の例文です。指示に従っている形なので、シンプルかつ丁寧に作成します。
件名:【内定辞退のご連絡】〇〇大学 氏名
本文:
株式会社〇〇
人事部 〇〇様お世話になっております。
〇月〇日に内定の通知をいただきました、〇〇大学の〇〇です。この度は内定のご連絡、誠にありがとうございました。
慎重に検討を重ねた結果、誠に勝手ながら、
今回の内定を辞退させていただきたく、ご連絡いたしました。ご期待に沿えず大変申し訳ございませんが、
何卒ご了承いただけますようお願い申し上げます。貴重なお時間を割いていただいたこと、心より感謝しております。
末筆ながら、貴社の益々のご発展をお祈り申し上げます。
署名
⑥ 【メール】辞退理由を具体的に伝える場合の例文
「一身上の都合」ではなく、少し具体的に理由を伝える場合の例文です。他社への言及は避け、自身のキャリアプランなどに焦点を当てると良いでしょう。
件名:【内定辞退のご連絡】〇〇大学 氏名
本文:
株式会社〇〇
人事部 〇〇様(挨拶、内定へのお礼は省略)
このような素晴らしい機会をいただきながら大変恐縮ですが、
慎重に検討を重ねた結果、誠に勝手ながら、
今回の内定を辞退させていただきたく存じます。御社からいただいた評価は大変光栄であり、最後まで悩みましたが、
自身の専門分野である〇〇の知識をより深く追求したいという思いから、
別の道へ進む決断をいたしました。ご期待に沿うことができず、大変申し訳ございません。
(結びの言葉、署名は省略)
⑦ 【メール】留守番電話にメッセージを残した後に送る場合の例文
担当者不在で、留守番電話に要件を簡潔に残した後に送るフォローメールです。
件名:【内定辞退のご連絡】(〇〇大学 氏名)
本文:
株式会社〇〇
人事部 〇〇様お世話になっております。〇〇大学の〇〇です。
先ほどお電話いたしましたが、ご不在でしたので留守番電話にメッセージを残させていただきました。
改めてメールにてご連絡いたします。この度は内定のご連絡、誠にありがとうございました。
大変恐縮ではございますが、検討の結果、
今回の内定を辞退させていただきたく存じます。直接お話しできず、メールでのご連絡となり申し訳ございません。
選考では大変お世話になりましたこと、心より感謝申し上げます。
末筆ながら、貴社の益々のご発展をお祈り申し上げます。
署名
内定辞退の理由は正直に話すべき?伝え方のコツ
内定辞退の連絡で、多くの人が頭を悩ませるのが「辞退理由の伝え方」です。「本当のことを言うべきか」「どんな理由なら角が立たないか」など、気になる点は多いでしょう。この章では、辞退理由の伝え方の基本と注意点について解説します。
基本的には「一身上の都合」で問題ない
結論から言うと、内定辞退の理由は「一身上の都合により」で全く問題ありません。学生には職業選択の自由があり、辞退理由を詳細に報告する法的な義務はないからです。
企業側も、内定辞退者が出ること自体はある程度想定しており、辞退理由が「一身上の都合」であっても、それ以上深く詮索してくるケースは稀です。採用担当者は、学生が複数の企業を併願していることを理解していますし、「他社に決まったのだろう」と察してくれます。
下手に正直に言いすぎて相手を不快にさせたり、嘘をついて後で矛盾が生じたりするリスクを考えれば、「一身上の都合」という定型句を使うのが最も安全で無難な選択肢と言えます。無理に複雑な理由を考える必要はありません。大切なのは、理由の内容よりも、辞退すること自体への謝罪と、これまでの選考への感謝を伝える誠実な姿勢です。
具体的な理由を伝える場合の注意点
「一身上の都合」では、どうも誠意が伝わらない気がして、具体的な理由を伝えたいと考える人もいるでしょう。正直に伝えること自体は、悪いことではありません。伝え方によっては、誠実な人柄が伝わり、円満な辞退に繋がることもあります。
しかし、具体的な理由を伝える際には、細心の注意が必要です。以下のポイントを守り、相手への配慮を忘れないようにしましょう。
- 他社や自社への批判は絶対にしない:「御社の〇〇という点に不安を感じた」「他社の方が給与が良かった」といったネガティブな理由は、相手を不快にさせるだけです。たとえそれが本音であったとしても、口にしてはいけません。
- ポジティブな表現を心がける:辞退の理由を述べる際は、ネガティブな視点ではなく、ポジティブな視点から語ることが重要です。「〇〇が嫌だったから」ではなく、「自分の〇〇という強みをより活かせると思ったから」「〇〇というキャリアプランを実現するため」といった、前向きな決断であることを伝えましょう。
- 嘘はつかない:その場しのぎで「学業に専念するため」などと嘘をつくと、もし後でSNSなどで別の会社に入社したことが分かった場合、信用を失うことになります。嘘をつくくらいなら、「一身上の都合」で通す方が賢明です。
- 簡潔に伝える:理由は長々と話す必要はありません。聞かれたら手短に答える程度に留めましょう。話が長くなると、言い訳がましく聞こえてしまう可能性があります。
【具体的な理由の伝え方(良い例)】
「御社からいただいた評価は大変光栄で、最後まで悩みましたが、自身の専門性である〇〇の分野でキャリアをスタートさせたいという思いが強く、別の道に進むことを決断いたしました。」
このように、相手への敬意を示しつつ、自分の前向きな意思決定として伝えることが、角を立てないコツです。
伝えない方が良いNGな辞退理由
最後に、たとえ事実であっても、辞退理由として伝えるべきではないNGな例を具体的に挙げておきます。これらの理由は、あなたの印象を悪くし、円満な辞退を妨げる原因となります。
- 待遇や条件への不満:「給与が希望額に届かなかった」「福利厚生に不満がある」といった条件面の話は、相手に「条件次第で動く人」という印象を与え、失礼にあたります。
- 会社の雰囲気や社員への批判:「面接官の態度が悪かった」「社風が合わないと感じた」といった主観的な批判は、相手を直接的に攻撃する言葉であり、絶対に避けるべきです。
- 「第一志望ではなかった」というストレートな表現:「御社は第二志望だったので」という言い方は、あまりにも率直すぎて、相手への配慮が欠けています。「他社とのご縁があり」など、もっと柔らかい表現に言い換えましょう。
- 曖昧でネガティブな理由:「なんとなく不安になった」「自分には向いていない気がした」といった漠然とした理由は、無責任な印象を与えます。
内定辞退は、いわば「お断り」のコミュニケーションです。相手を傷つけず、不快にさせない言葉選びが、社会人としての品格を示します。本音と建前をうまく使い分けることも、円滑な人間関係を築く上で重要なスキルの一つです。
内定辞退に関するよくある質問
内定辞退に際しては、マナーや伝え方以外にも様々な疑問や不安が浮かんでくるものです。この章では、多くの人が抱くであろう質問にQ&A形式で回答し、あなたの悩みを解消します。
内定承諾後に辞退することはできますか?
はい、内定承諾書を提出した後でも、内定を辞退することは法的に可能です。
内定承諾書の提出によって、企業と学生の間には「始期付解約権留保付労働契約」という労働契約が成立したと解釈されます。しかし、日本の民法第627条第1項では、期間の定めのない雇用契約について、労働者はいつでも解約の申し入れ(退職の意思表示)ができ、その申し入れから2週間が経過することで契約が終了すると定められています。
つまり、入社日の2週間前までに辞退の意思を伝えれば、法的には問題なく労働契約を解約できるのです。
ただし、法的に可能であることと、道義的な責任は別の話です。内定承諾後の辞退は、承諾前の辞退に比べて、企業側が受けるダメージ(人員計画の修正、代替要員の確保の困難さなど)が格段に大きくなります。したがって、承諾前の辞退以上に、迅速かつ丁寧、そして誠心誠意の謝罪が求められます。場合によっては、電話やメールだけでなく、直接会社に伺ってお詫びをすることも検討すべきでしょう。
企業から引き止められた場合はどうすれば良いですか?
内定辞退を伝えた際、特に優秀な学生に対して、企業が引き止め交渉をしてくることがあります。「何か不満な点があるなら改善する」「給与条件を見直す」といった提案をされるかもしれません。このような場合、どのように対応すべきでしょうか。
- まずは相手の話を丁寧に聞く:相手もあなたを高く評価してくれているからこその引き止めです。話を遮ったり、無下に断ったりせず、まずは真摯な態度で相手の言い分に耳を傾けましょう。
- 評価への感謝を伝える:「そこまで評価していただき、大変光栄です」「魅力的なご提案、ありがとうございます」など、引き止めてくれたこと自体への感謝をまず伝えましょう。
- 辞退の意思が固いことを、改めて明確に伝える:感謝を述べた上で、「大変ありがたいお話ではございますが、熟考を重ねた上での決断ですので、辞退させていただく気持ちに変わりはございません」と、毅然とした態度で、しかし丁寧にお断りします。ここで曖昧な態度を取ると、「まだ交渉の余地がある」と相手に期待させてしまい、話が長引く原因になります。
- 感情的にならない:もし相手が少し感情的になったとしても、こちらも同じ土俵に乗ってはいけません。あくまで冷静に、丁寧な言葉遣いを崩さないことが重要です。
大切なのは、感謝の意を示しつつも、自分の決断に揺らぎがないことをはっきりと伝えることです。
損害賠償を請求されることはありますか?
「内定を辞退したら、会社から損害賠償を請求されるのではないか」と不安に思う方もいますが、通常の内定辞退で損害賠償を請求されることは、まずありません。
過去の判例でも、職業選択の自由は憲法で保障された重要な権利であり、内定辞退の自由は広く認められています。企業が採用活動にかかったコスト(求人広告費や面接官の人件費など)は、企業の事業活動に伴う通常の費用と見なされるため、それを内定辞退者に請求することはできません。
ただし、極めて例外的なケースとして、損害賠償が認められる可能性がゼロではありません。例えば、「入社を前提として、企業がその学生のためだけに海外での特別な高額研修を実施した」「会社が提供した社宅に入居し、多額の費用が発生した直後に辞退した」など、企業が学生個人に対して特別な投資を行い、その信頼を著しく裏切るような悪質なケースです。
しかし、これは本当に稀なケースです。誠実な対応で内定辞退をする限り、損害賠償の心配は不要と考えて良いでしょう。
辞退の連絡をするのが怖い場合はどうしたら良いですか?
辞退の連絡、特に電話をすることに恐怖を感じるのは、決してあなただけではありません。申し訳ない、気まずいという気持ちから、怖いと感じるのはごく自然なことです。その恐怖を乗り越えるためのヒントをいくつか紹介します。
- 準備を万全にする:本記事で紹介したように、話す内容をメモに書き出し、手元に置いておくだけで安心感が格段に増します。何度か声に出して練習する(シミュレーション)のも効果的です。
- 企業も「慣れている」と理解する:採用担当者は、毎年一定数の内定辞退者が出ることを想定しています。あなたからの連絡が初めてのケースではありません。事務的に、冷静に対応してくれる場合がほとんどです。
- 「放置」が最悪の選択肢だと知る:連絡が怖いからといって先延ばしにしたり、無視したりすることは、社会人として最もやってはいけない行為です。連絡をしないことで、企業に多大な迷惑をかけ、あなたの信用を完全に失います。怖いという気持ちと向き合い、一歩踏み出す勇気を持つことが重要です。
- 誰かに相談する:大学のキャリアセンターの職員や、信頼できる先輩、親などに相談してみるのも良いでしょう。客観的なアドバイスをもらえたり、話すことで気持ちが整理されたりします。
内定式や研修に参加した後に辞退しても良いですか?
法的には、入社日の2週間前までであれば辞退は可能です。したがって、内定式や入社前研修に参加した後でも辞退すること自体はできます。
しかし、参加後の辞退は、企業に与える迷惑の度合いが非常に大きいことを自覚しなければなりません。内定式や研修にはコストがかかっており、同期となるはずだった他の内定者との関係性も生まれています。
この段階で辞退する場合は、これまで以上に丁重な謝罪が不可欠です。電話とメールで連絡するのはもちろんのこと、可能であれば会社に直接出向いて、採用担当者に会ってお詫びをするのが最も誠実な対応と言えるでしょう。また、制服や教材などの備品を受け取っている場合は、速やかに返却手続きについて確認し、指示に従ってください。
お詫びの手紙は送るべきですか?
基本的には、電話とメールによる丁寧な連絡で十分であり、お詫びの手紙まで送る必要は必ずしもありません。
ただし、手紙を送ることで、より深い謝意と誠実さを示すことができます。特に、以下のようなケースでは手紙を送ることを検討しても良いでしょう。
- 内定承諾後や内定式参加後など、企業に大きな迷惑をかけてしまった場合
- 選考過程で特定の社員に大変お世話になり、個人的に感謝と謝罪を伝えたい場合
- 非常に伝統を重んじるような業界や企業の場合
手紙を送る際は、便箋と封筒は白無地のシンプルなものを選び、黒のボールペンか万年筆を使って手書きで作成します。内容は簡潔に、感謝と謝罪の気持ちを中心に綴りましょう。
推薦状をもらった大学や教授への報告は必要ですか?
はい、学校推薦や教授推薦で内定を得た場合、辞退する際には企業への連絡と同時に、必ず大学のキャリアセンターや推薦してくれた教授へ報告・相談しなければなりません。 これは絶対的な義務です。
推薦による内定を辞退することは、あなた個人の問題だけでなく、大学や教授、そして後に続く後輩たちの信用問題に直結します。報告を怠ると、来年度以降、その企業からあなたの大学への推薦枠がなくなってしまう可能性さえあります。
理想的なのは、企業に連絡する前に、まず推薦者である教授やキャリアセンターに辞退したい旨を相談することです。そして、企業への連絡を終えたら、その結果を速やかに報告します。報告の際は、電話やメールで済ませるのではなく、必ず直接出向いて、これまでの尽力への感謝と、迷惑をかけることへの謝罪を直接伝えるのが最低限の礼儀です。
まとめ:誠意ある対応で円満な内定辞退を
内定辞退は、就職・転職活動において誰もが経験する可能性のある、一つの重要な決断です。辞退の連絡は気まずく、精神的な負担も大きいものですが、適切なマナーと手順を踏むことで、企業との関係を損なうことなく、円満に完了させることができます。
この記事で解説してきた重要なポイントを改めてまとめます。
- 迅速な連絡:辞退の意思が固まったら、1日でも早く、企業の営業時間内に連絡することが最大の配慮です。
- 連絡方法の最適化:原則は電話での第一報が最も丁寧です。その上で、確認とお詫びを兼ねてメールを送る「電話+メール」の組み合わせが、誠意を最大限に伝え、記録にも残る理想的な方法です。
- 誠意ある態度:辞退は権利ですが、選考に時間を割いてくれた企業への感謝と謝罪の気持ちを忘れないことが何よりも大切です。言葉遣いや態度で、その気持ちを真摯に示しましょう。
- 周到な準備:電話をかける前には、静かな環境を確保し、話す内容をまとめたメモを用意することで、落ち着いて対応できます。メールの場合は、送信前の入念なチェックが不可欠です。
- 理由の伝え方:辞退理由は「一身上の都合」で問題ありません。具体的に伝える場合は、相手への批判を避け、ポジティブな表現を心がけましょう。
内定辞退という、一見ネガティブに思える経験も、社会人として求められる「報連相」や「相手への配慮」「誠実なコミュニケーション」を実践する絶好の機会と捉えることができます。この経験を通じて得られる学びは、あなたの社会人としての成長の糧となるはずです。
不安や恐怖を感じるかもしれませんが、勇気を出して、この記事で紹介した内容を一つひとつ実践してみてください。あなたの誠意ある対応は必ず相手に伝わり、円満な形で次の一歩を踏み出すことに繋がるでしょう。